【過去記事】僕は超能力者じゃなかった。

小学生高学年くらいの時。
 
当時、そこそこ仲の良かったO君が、珍しく泣いていたらしく、犯人は僕だとかで先生に呼び出された。
女の先生で、体格は小柄、知的障害のある子供を2人だか育てて、それが原因なのかそれとも当時の教育の方針なのかは知らないけれど、道徳とか道徳心だとかってもんに凄くうるさい人で、例えばそれがゲームやマンガの話であっても殺すなんて事を口走ると、ヒステリックに怒るような先生だった。

明確な答えがなく、時と場合と場所と相手と自分と、その時々で答えがいくつもあって、どれが正解とも分からない道徳という授業や先生の講釈に僕は釈然とせず、あんまり好きじゃなかった。
未だに僕は、人を殺してはいけない理由を明確に語れないし、混み合う電車の中で優しさを発揮して老人に席を譲るべきか、はたまた年寄り扱いするのは失礼にあたるので、あえて席を譲らざるべきか、その答えを持たない。
 
どうやらO君は、僕のとある一言に傷ついて、放課後の教室で泣いていたらしい。
その言葉がなんだったかは覚えてない。
先生に事情を説明されたけど、僕はそんな事を言った覚えがなくて、さらに言えば、そんな言葉で泣くの?というような感想しか持てなかった。

先生に、とにかくO君に謝りなさい、と言われたけど、言った記憶もなけりゃそもそもそんな言葉で泣く意味もわからないし謝らないと僕は突っぱねた。
その反応が良くなかったらしく、小一時間くらいは説教された気がする。
 
O君がこんなに傷ついてるのに、あなたは人の気持ちがわからないの?
僕は人の気持ちがわかった事なんてただの一度もないし、僕の気持ちをわかってもらった事もない。
 
あんな事を言われたら自分がどう思うか想像してみなさい。
なんとも思わないし、僕が傷ついたとしてもそれは僕がどう思うかであって他の人がどう思うかは関係ない。
 
実に生意気なクソガキだ。
 
結局、僕はO君に謝らなかったんじゃないかな。
そこんとこもよく覚えてない。
 
その後の僕といえば、こんな面倒なことになるならと思ってクラスメイトとの距離を一気に離した。
それ以降、先生は何か理由をつけては僕を呼び出し説教した。僕を矯正しようとしたのか、それとも教師としての愛情なのかはわからない。
とりあえず、僕は先生の事を嫌いになった。
 
生意気エピソードは絶えない。
授業中、ノートに絵を描いてるのを先生に怒られ、廊下に立ってろと言われて、その授業が終わるまで廊下に出て絵の続きを描いてた。
授業が終わり先生が僕のところに来て、どんな気持ちで廊下にいたの?と聞かれて、まだ描き終えていない絵を見せながら、絵の続きが描けると思ったと言ったら、やっぱり説教された。
ある時は、多分それが4時間目とか5時間目だったのかな。とりあえず廊下に立たされ、最後の授業受けなくていいなら帰ろうと思いそのまま帰ったら、やっぱりめちゃくちゃ怒られた。
 
生意気なクソガキである。

僕は超能力者じゃないから、今でも人の気持ちは分からないし、自分の気持ちを分かってもらえる事もない。
人の気持ちが伝わってきた事もないし、人に気持ちを伝えられた事もない。
僕と会話をする人も、きっと、僕の気持ちは分からないし、僕の気持ちが伝わった事もないだろう。
今でこそ、そんな自分の考え方を相手に話すこともなくなったけど、人との関わりはその概念が常に中心にある。
会話をすれば考えを分かってもらえて、気持ちを伝えられるとか、もちろん実際にはそんなことは起こってないし、そうなるなんて信じてない。
昔の僕は、相手の心の中なんて分かりっこないし、想像は出来ても、結局それは自分の考えでしかないと色々なものを突っぱねてたけど、今はそんな事もしなくなった。
気持ちを伝える、気持ちを理解する、そういった、ある種の形式を演じられるようになった。
だから、世間的に言う"不用意な発言"とか"空気の読めない発言"なんてものは減ったと思う。
それが適応なのか諦めなのかは分からない。
 
今でも僕は、生意気なクソガキのままだ。